よく「老人イボ」と言われる皮膚に発生する腫瘤(イボ・できもの)。多くの場合は良性ですが、悪性の場合もあるため注意が必要です。ひどくなり全身麻酔ができない場合に、レーザー蒸散法という方法もあります。

こんばんわ。仙台は本日で27日連続の雨…
雨は嫌ですが、気温も涼しく熱中症の子も今年は少なくて、今シーズンはすごしやすくていいなと思っていたら。病院内の洗濯物が乾かない!乾燥機がフル稼働…病院裏は猛暑となっております。今回は、最近治療していた局所麻酔での半導体レーザー蒸散法で皮膚の腫瘤(イボ)のお話です。

頭や背中などにぽこっとできた「イボ(できもの)」。「老人イボ」だから大丈夫!といわれたと、聞くことも多いです。多くの場合は良性腫瘍ですが、中には悪性の場合もありますのでそのまま放置していても100%大丈夫というわけではありません。

皮膚にできた腫瘤(イボ)


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イボによっては、治療をしなくても数ヶ月以内に自然に退縮していったり、そのままの大きさで何年も経過していく場合もありますが、数がどんどんふえていったり、だんだん大きくなったり、ブラッシングやひっかいて出血したり、感染が起きて膿んでしまい気にして引っ掻いたりする場合があります。そういった場合は、検査や治療が必要になります。

皮膚の腫瘍は針生検などを実施して、その診断結果を参考にしながら外科的にマージンを取って切除するのが通常の流れです。これは、もし悪性腫瘍だった場合は腫瘍だけでは無く十分な範囲を切除して再発や転移をなるべく防ぐために必要なことです。

しかし、基礎疾患があり全身麻酔の危険性が高く手術が難しい場合や高齢で麻酔をかけるのを飼い主様が躊躇する場合もあります。
そのままの大きさで、過ごしていてくれればまだ良いですが、どんどん大きくなったり、出血や感染を起こして気にするようになってきた時に麻酔ができないからとはいえそのまま放置をしていて良いか?というと…なんとか別の方法で対処できないかと考えてしまいます。そんな時に、動物病院で無麻酔や局所麻酔で行われる治療法としては、液体窒素などで行われる凍結凝固法や半導体レーザーを用いた蒸散法で治療が行うこともあります。


当院では、半導体レーザーによる蒸散法で実施します。半導体レーザーは、重度疾患があり全身麻酔が厳しい場合や、手術困難な腫瘍や放射線治療が第一選択で大学病院などでしか治療ができず移動距離も仙台からだとかなり遠いため距離的な理由やかかる費用・動物の負担を考えると希望されない場合も多いため、代替療法として他の治療も提示できないかと5年ほど前に導入ました。手術時の切開や止血、腫瘍の蒸散や温熱療法、消炎や疼痛緩和療法、椎間板ヘルニアの手術などなど、診療でほぼ毎日活躍する汎用性の高い装置です。

今回の子は、老人イボといわれてそのままにしていたが首や右後肢にあるイボを気にして引っ掻くようになり、出血してきたとこられた高齢のわんちゃんです。
色々と方法も説明しましたが年齢のこともあり、気にしているイボをなんとかしてあげたいとレーザー蒸散法を希望されました。
イボもかなり大きかったため、1週間〜2週間おきにレーザーを照射し全3〜4回の照射で治療していく予定になりました。

■治療1回目(1日目)
局所麻酔をして、首と右後肢の腫瘤(イボ)をレーザーで蒸散していきます。右後肢にある腫瘤(イボ)はかなり大きく半分はカサブタがはって出血と感染をおこしていました。範囲も大きく一度にやると負担も大きいため半分だけ処置しています。
蒸散処置後は、皮膚が焦げて黒色化しますがすぐに落ち着いてきます。痛みもほとんどなく、処置した部分を気にする子は少ないです。

■治療2回目(10日目)
首の部分は腫瘤(イボ)はほとんどなくなっていましたが、下側の大きいイボのところはまだしこりを触知できたので再度レーザーを当てました。右足の部分は、感染もほとんどなくなり出血もずいぶん少なくなりました。大きさも半分ほどに。再度レーザーをあてて蒸散処置を施し、次回は2週間後に通院です。

■治療3回目(24日目)
首の部分は、前回再照射した下の部分はほぼ完治気味。上の部分が改善が弱かったため、2箇所とも軽めにレーザーをあてました。右後肢の部分は、だいぶ小さくなってきましたがまだ完全には治らなそうです。再度レーザー処置し2週間後に通院です。

■治療4回目(34日目)
首の部分は完全になくなり、右後肢もほとんど完治しております。特に右後肢は後1−2回はレーザー蒸散処置が必要かなと思っておりましたが、急速に改善しておりとても経過が良かったため今回で治療は終了です。

■ビフォーアフター
①首のところ
②右後肢
全3回で治療を終了することができました。
大きさも大きさだったためもう少しかかるかなと思いましたが早めに改善してくれてオーナー様も満足です。

半導体レーザーによる蒸散法は、外科切除とはちがい、根治を目指す治療ではありません。どちらかというとQOL(生活の質の改善)させることを目指す治療法です。
しかしながら、腫瘤(イボ・できもの)があり全身麻酔がどうしてもかけることのできない時などに、そのまま放っておくと、どんどん大きくなったり、痛みや気にして引っ掻いてしまい自壊や出血をしたり、感染をおこし排膿や臭いがひどい場合などには、局所麻酔で治療のできる体にかかる負担の少ない治療法でもあります。
年齢や基礎疾患などが理由で、腫瘤(イボ・できもの)の経過をみていてひどくなってしまった場合には、お早めにご相談ください。

※以下の場合にはレーザー蒸散法を実施できない場合もあります。
 ①レーザー照射中に嫌がって極端に動いてしまう子
 ②興奮すると失神したり痙攣を起こしてしまう子(心不全など)
 ③目の近くや、口の中などに腫瘤(イボ・できもの)がある場合
 ④腫瘤(イボ・できもの)が大きすぎる場合
 ⑤全身麻酔の実施が可能な健康状態で外科切除が可能な場合