僧帽弁閉鎖不全症:元気がない、散歩に行きたがらない、急に咳をするようになったなどの症状には要注意!僧帽弁閉鎖不全症は犬の心臓病の中で最も多い心臓病です。

僧帽弁閉鎖不全症(MR)は、犬の心臓病の中で最も多い病気です。

僧帽弁は、心臓の左側の左心房と左心室の間にある弁で、肺から酸素をもらって来た血液を一定方向に流れるようにロックをかける弁です。肺から新鮮な酸素を血液がもらい、左心房⇨左心室に戻ってくると一気に心臓が収縮して全身に血液を送り出します。この時に「僧帽弁」は肺に血液が逆流しないようにしっかりと閉じていなければいけません。

ところが、マルチーズ、シーズ、ポメラニアン、プードル、チワワやキャバリアなどの小型犬の多くは、加齢とともに粘液変性にて弁が肥厚したり、弁を支持している腱策が断裂したりして血液の一部が左心房に逆流するようになります。発生初期は、無症状で心雑音が聴診できるだけですが、進行すると血液の逆流で肺がうっ血してしまい、呼吸が苦しくなって来て、元気が無くなったり、疲れやすくなって来たりして来ます。さらに症状が進んでくると肺胞に水が溜まってくる肺水腫を引き起こして咳が見られるようになり、呼吸困難や酸素欠乏を引き起こして最終的には死に向かってしまいます。
今回の子は、Tちゃん。
食欲ムラと1ヶ月前くらいから咳をするようになり散歩中も疲れて横になるとと来院された子です。来院した時には、待合室でも咳が聞こえて、診察してすぐに、心雑音が聴診されました。すぐにレントゲン撮影をして心臓の肥大と肺水腫を確認し、エコー検査にて僧帽弁逆流を見つけ投薬を開始しました。



 

 

治療薬には、ACE阻害薬、血管拡張薬、強心薬、β遮断薬、利尿剤などを用います。今回は、循環動態があまり良くなかったため、利尿剤を投与しながら状態を見て何週間かかけて少しずつ薬利尿剤の減薬と内服薬の追加をしていきます。

治療開始0日目(左)→30日目(右)の写真

日常の生活では、ほとんど咳もしなくなり散歩も元気にいっているそうです。
だいぶうっ血も改善され、肺水腫も改善されてきましたが状態も悪かったため通院の間隔を徐々に長めにしていきながら内服薬の調整をまだ調整している途中です。

僧帽弁閉鎖不全症は、治療的には内科療法と外科療法がありますが、外科療法ができる施設は限られており、現在は内科療法がメインで治療されることが多い病気です。内科療法では、弁を治す治療ではなく、できるだけ心臓の負担を少なくして、心筋の変性を防ぐ治療をします。内服をしても徐々に進行して行くので症状に合わせて強心薬やβ遮断薬、利尿剤などの薬を追加していきます。僧帽弁閉鎖不全症は、初期の症状がないときの治療をどうするかが悩みどころの病気です。
心雑音が聴診されたら、レントゲン検査やエコー検査など心臓の状態をまずはチェックして見て適切なタイミングを獣医師と相談しながら治療を始めてあげることをお勧めしています。
当院では無症状期は、半年に1回程度、症状が出始めてきたら3~6ヶ月に1回の定期的な検診をお勧めしています。心雑音が聞こえる、心臓病の症状が改善しないなどの時にはぜひお気軽に、ご相談してください。