犬や猫の破折、咬耗や摩耗。エナメル質形成不全、う蝕、破歯細胞性吸収病巣などの歯が欠損する疾患、歯内治療(保存修復)
■犬や猫の抜髄根管治療(歯内治療)
歯内治療とは歯の中の歯髄(血管と神経)を抜き取りなかに詰め物をして感染を防ぎ歯を残す治療法のことです。
犬や猫は、落下事故や交通事故、硬いおやつやおもちゃなどを噛んだりすることによって歯が折れてしまうこと(破折)があります。
歯髄まで病変が及んでいない場合は、歯表面(エナメル質や象牙質)の損傷部位をドリルで削ってセメントで埋める処置(間接歯髄覆とう法)でほとんど元の状態に治すことができます。
折れる場所が悪く歯髄まで病変が及んでしまっている場合(露髄)は、直接歯髄覆とう法歯内治療が適応される場合があります。もし折れてしまい露髄しているような場合は、
⇨1歳未満であれば3日以内
⇨2−3歳くらいの年齢であれば2日以内
3歳以上の子であれば1日以内
なら、歯の表面をセメントで埋める(直接歯髄覆とう法や生活歯髄切断術)という方法での治療することができます。それ以上の日にちがたっていた場合は、抜歯術や抜髄根管治療などの処置で治療を行うことが多いです。
一般的に動物の歯の破折が認められた場合、露髄してからの時間で歯髄保存療法をおこなった場合の成功率は、
⇨0〜48時間以内:88.2%
⇨48時間〜1週間:48%
⇨1週間以上:22.3%以下
と言われています。
歯内療法で抜髄しなければいけない歯は、露髄から時間が経っていて歯髄に感染を起こしている歯です。痛みをともなっている場合もありますし、そのまま放置していると歯根に膿瘍を作ってしまい、歯茎やほっぺが腫れてしまったりひどい場合には皮膚や鼻から膿が出てしまったりしてしまう場合もあります。
今回の子は、Gちゃん。トリマーさんに犬歯が折れていることを指摘され、歯を残したいということで来院されました。折れた日がいつ頃かは不明ですがお話を聞いていると少なくとも1〜2ヶ月くらいはたっていそうです。
歯内治療のことも含めて説明をしながら治療方法のことを相談しそのままお預かりして、当日の診察終了後に検査をして状態を判断し治療することになりました。
左の上顎犬歯が破折しています。赤いぽちっとしたところが露髄している可能性があります。探針ブローブで検査したところ歯内から出血し露髄しているのがわかります。
今回は、根尖も膿んでいないため歯内治療を実施。ファイルで神経と血管を地道に取り出します。歯髄の尖端まで地道に掘り掘りしていきます。
歯髄の尖端までファイルが届いたら、徐々に太いファイルに変更していき消毒してしっかりと消毒をして乾燥させたら詰め物をして歯髄を完全に塞ぎます。
歯髄を塞いだ後は、セメント(コンポジットレジン)で歯に蓋をしてセメントと歯を研磨して滑らかにして治療は終了です。
この後は、歯に感染が起きていないか半年後、1年後、それ以降は1年おきに術後3年目頃までデンタルレントゲンを撮る検査が必要になります。
犬や猫の歯内治療は、歯が折れて時間の経ってしまった場合に歯を残せる可能性がある治療法です。しかし、歯科治療の中では抜髄根管治療は難度の高い治療で用意する歯科材料も多いですし治療に時間もかかるため処置ができる動物病院もまだまだ少ないのが現状です。人であれば何回かにわけて時間をかけながら実施する治療ですが、犬や猫の場合はそれを麻酔をかけて1日で終わらせなければいけません。できるだけ、早めに対処してあげることが大切です。
何よりの予防策は硬いものを極力与えないことですが、万が一歯が折れてしまった場合は、すぐに受診をお勧めいたします。