■歯牙破折(平板破折、磨耗、露髄)
犬や猫で歯が折れた!かけた!と慌てて来院されることは意外に多いです。
特に多いのは、ひづめのおもちゃやアキレス腱や歯磨きガムなどの硬いおやつをあたえたら欠けてしまったとこられるケースです。
上の写真は、「ひづめのおもちゃ」を与えて左の上顎第4前臼歯が破折してしまい来院された子の写真です。犬や猫の前臼歯は「裂肉歯(シザーバイト)」という肉食哺乳類にみられるハサミの様な構造をしており、皮や筋肉を切り裂くための形をしています。そのため、硬いおやつやおもちゃなど噛み切れない硬さのものを与えると刃こぼれを起こすように歯が欠けてしまいます。
特に、上顎第4前臼歯(上顎奥歯の一番大きい歯)は接地する面が大きいため、歯が最も欠けやすい場所です。先日もお話ししたように、歯が折れた・欠けたてしまった場合は、歯髄に感染が起きる前に治療をすることが大切なためお早めの来院をお勧めします。そのまま放置していると痛みで口を触らせなくなったり、首を傾げたり、片側でご飯やおやつを食べるようになったり、ひどい場合には、鼻やほっぺに瘻管をつくり鼻水や頬が腫れたり、膿がでてきたりすることもあります。
今回は、「犬や猫の折れた歯・欠けた歯を残す治療」ひづめを与えたら左上顎第4前臼歯が破折し露髄をおこし、抜髄根菅治療を実施したケースのご紹介です。犬で、一番多く見られる第4全臼歯の破折です。
口を痛がり何かおかしいな?と思い口の中をのぞいたら歯が欠けていたのを見つけ、折れた歯を残したいと来院されました。見つけたのは3日前ほどということなので、早めに全身麻酔下にて、破折した場所を検査し治療を行いました。
肉眼的には、赤く露髄している箇所があり、周囲にうっすらと歯石があるため破折して直後の可能性は低そうです。探針プローブで検査すると露髄を確認できました。
歯科レントゲン検査でも、根尖への感染も認められないため、今回は受傷から2日以上たっている可能性が高いため、歯髄への感染も考えて、抜髄根菅治療にて治療していきます。
第4前臼歯は、歯の根が3本(3根歯)のため2カ所に穴を開けてアプローチし1本1本歯髄の中の血管と神経をファイルを大きくしながら取り除いていきます。
時折レントゲンで確認しながら、尖端まできちんとファイルが入っているか確認をしながら治療を進めていきます。とても時間のかかる処置です。
歯髄の中の血管と神経をきれいに除去をできたら念入りに消毒と乾燥をして、充填材で歯髄を密閉し、充填材がしっかりと入っているか歯科レントゲンで確認します。
充填材が入っていることをしっかりと確認できたら、最後に穴の開けた部分を、歯科用のレジンで埋めて綺麗に磨いて治療を終わりました。今後は、半年〜1年毎に感染が起きてないないか治療後3年目くらいまで歯科レントゲン検査で歯の根の状態を経過観察をしていきます。
犬や猫の歯が折れてしまった・欠けてしまったときは、「犬や猫の歯を残す治療」を行うこともできます。露髄している場合は、数日以内に治療を行うことで歯を残せる可能性を高くすることができます。
ひづめのおもちゃやアキレス腱や歯磨きガムなどの硬いおやつやテニスボールやゴム製のおもちゃ、ゲージを噛むなど、歯を折れたり・かけたりする原因は身近に多く存在しています。犬や猫の歯を気にされているオーナー様も多いです。そのため、ペット用品コーナーで歯石予防や歯みがき効果などと記載されて販売しているおもちゃやおやつをいろいろ試してみたくもなるお気持ちもとてもわかります。
しかしながら、毎日の歯みがき以上に効果のあるデンタルケアは残念ながら存在しません。(もしあるなら、人が歯みがきをしないですよね?)
できるだけ、1日1回の歯みがきを習慣化し、なるべく歯が欠けたり折れたりしてしまうような硬いものを与えるのはできるだけ避けるようにしましょう。どうしても硬いおもちゃやおやつを与えないといけない場合や、ゲージなどを噛んでしまう場合は、定期的に口の中を覗いて欠けたり折れたりしていないかみてあげましょう。