■口鼻瘻管(こうびろうかん)とは、
犬や猫の口と鼻が病的に繋がってしまう状態のことを言い、犬の歯科では比較的多く遭遇する病気です。犬種的には、ミニチュアダックフントに多く遭遇します。猫でも起こる場合はありますが犬に比べると稀です。
歯石を放置したままにしていると歯周病が進行していき細菌によって歯槽骨(顎骨)をだんだんと溶かしていきます。上顎で歯周病が進行してしまうと、場所によっては歯根と鼻の穴の間の骨が非常に薄い部分で口鼻瘻管を形成することがあります。同様に下顎で歯周病が起こると骨が溶けてしまった場合は、骨の薄い部分で骨折することもあります。
■口鼻瘻管の症状は、
①鼻水や鼻血がでる
②くしゃみをする
③鼻の穴から食べ物や白い塊がでてくる
などの症状で来院されることが多いです。病院に来院された時に、歯が抜けてしまい目視で口鼻瘻管が存在している場合もありますし、歯がそのまま残っていて歯周病が見えないところで進行してしまい鼻水やくしゃみといった症状で病院にかかり全身麻酔下での検査で口鼻瘻管と診断される場合もあります。
今回ご紹介するのは、少し口鼻瘻管の場所を探すのに苦慮した子です。左の鼻腔より緑色の鼻水がでると来院されたわんちゃんです。
右側の歯石の付き具合や歯茎の減退がひどいため、なぜ左側から鼻水が出現するのかなと少し不思議に思いながら、全身麻酔下での歯石とりと歯科レントゲン検査、鼻腔レントゲン検査をさせて頂き診断と治療を実施しました。
歯石とりをすませて、歯科検査と鼻腔検査に進みます。まずは鼻の中のレントゲン検査です。通常のレントゲンでも鼻の中の構造は確認することができますが、歯科レントゲンは口の中にフィルムを入れて撮影することができるため鼻の中の状態をより詳しくレントゲンで確認することができます。
鼻の中には左の鼻の穴の入り口付近に若干陰影像が認められます。鼻の奥の方は異常な画像所見はなさそうなので鼻先の方にどうやら原因がありそうです。
次に、歯科検査と歯科レントゲン検査での確認です。スケーリング中に、左上顎犬歯の内側の歯周ポケットが深かったためそこが原因かな?と思いながら検査を進めていると、歯槽骨の減少がレントゲン検査で確認はできるものの、疎通検査を実施しても「口鼻瘻管」は認められませんでした。(写真①)
左上顎第3切歯は、見た目的には歯石もほとんどなく歯周ポケットもありません。しかしレントゲン検査では、歯槽骨の吸収が認められています。(写真①)臼歯のは、肉眼でもレントゲン上でも特に異常は認められず。左上顎犬歯からの歯周病が第3切歯の方に波及して、口鼻瘻管が形成されている可能性が高そうです。
そこで犬歯から第3切歯への歯周病の波及を疑い犬歯を中心に詳しく探針検査していると、犬歯と第3切歯を分けている骨の間に2-3mmほどの小さな瘻管を見つけました。犬歯で進行している歯周病が、歯槽骨を溶かし隣の第3切歯とは場所によっては非常に骨が薄く歯同士が密接しているため、その場所で骨に小さな穴を開けて、第3切歯に細菌が侵入して病巣を作ったと思われます。
今回は、犬歯(原因の歯)と第3切歯(病変の歯)を抜歯して治療します。抜歯するとたくさんの炎症性の肉芽組織が歯根に存在し炎症が思ったより酷かったです。第3切歯を抜歯して、瘻管を探すと、やはり第3切歯に口鼻瘻管が存在していました。(写真③)
簡単に模式図で書いていくと上記のような感じです。口の中の細菌が骨の中にトンネルを2つ作って鼻腔の方に移動しています。第3切歯の吸収病巣は細菌の繁殖場所になって、そこでさらに増殖して鼻の方に穴を開けて鼻水の症状をがでています。
治療を進め、骨内と鼻腔内の炎症性の肉芽組織を綺麗に取り除き、口鼻瘻管を塞ぐために、粘膜をフラップ縫合します。抗菌薬や鎮痛薬を1週間ほど内服し、粘膜がくっついたら治療は終了です。
口鼻瘻管は、上顎の犬歯に多く見られ、ついで第4前臼歯(奥歯の一番大きい歯)に見られることが多いです。ときおり、犬歯が勝手に抜けて口鼻瘻管が形成していたり、スケーリングなどの際に抜歯してそのまま粘膜フラップを作らずに放置されているケースで来院される場合もありますが、そのまま穴が開いたままの状態で放っておくと、異物や細菌が鼻腔内に病変をつくり鼻炎や副鼻腔炎、病態が重くなると肺炎まで波及する場合もあるため、そのまま放置して良いというわけではありません。
また、鼻水や鼻血がでている症状を放置したままにしていると痛みのある状態で我慢していることが多く、時間が経ってからの歯科治療は難抜歯になるケースが非常に多いため早めに治療してあげるほうが、治療の痛みも日常の痛みも少なくしてあげることができます。
歯周病や歯石は、放置していても良いことは何もありません。抜歯や歯科治療を行うような症状の出る前に、歯石とりや歯磨きなどで口腔内のケアを定期的に実施してあげることをお勧めいたします。