歯のおはなし
3歳以上の犬の60%、猫の80%の子は、歯周病になっていると言われています。
動物にとっても、「歯みがき」で歯周病を予防するのがいちばんなのですが、動物の予防歯科の情報がすくなく、あやまった情報や製品も多いため、上手な「歯みがき」をできていない子も多く見受けられます。
当院に、歯科治療でご来院いただくオーナー様は”歯”に関心を持っていただいてる方がほとんどなので、歯ブラシも歯石予防の製品もいろいろと試している方が多いです。それでも、なかなかうまくできなかったり、悩んでも相談するところがわからなかったと答えるオーナーさんが毎日来院されます。
ここでは、歯周病・予防歯科・歯石とり・歯科治療について少しだけご紹介いたします。詳細は、実際にデモンストレーションをしながら説明しますので受診をお勧めいたします。
歯周病は、歯垢(プラーク)によっておこる歯の周りの病気のことを指します。 ごはんを食べたときに、”食べかす”が口の中に残ってしまいます。この”食べかす”の糖分で歯の表面に被膜(ペリクル)という白っぽい糊のようなものが形成されます。これに細菌が繁殖し”プラーク(歯垢)”を形成し、このプラークが炎症をひきおこします。このプラークに唾液の中のカルシウムやリンがとりこまれ歯石が形成されます。
ペリクル:食後20分で形成される。
プラーク(歯垢):ペリクル形成後24時間で形成される。
歯石:プラーク形成後、2〜5日間で形成される。
歯石のできるまでの期間は、人の5〜6倍のはやさです。歯石の表面はざらつきが強いため、プラーク(歯垢)が付着しやすいためどんどん歯を覆っていきます。
見た目では、歯茎の炎症、歯肉の減少、歯槽骨の吸収(骨が溶ける)、歯のぐらつきがでてくるようになり、最終的には歯が脱落してしまいます。この進行の過程の中ででてくる様々な病気を「歯周病」といいます。
歯磨きのコツを少しだけご紹介いたします。ステップごとに1週間から1ヶ月ほどかけて少しずつやれることを進めていきましょう。無理やり抑えてグリグリやってしまうと、鼻先は急所のため攻撃になってしまったり、はたまた歯みがきを全くさせてくれなくなってしまいます。 嫌がるときは今日はトレーニングはお休みにして、翌日に再度チャレンジして上手にできたら褒めてあげましょう。犬や猫は飼い主さんが喜ぶことをどんどんやってくれます。
Step1. 口周りを触ることに慣れさせましょう(歯磨きペーストに慣れさせる。)
歯磨きペーストを指につけて、おやつだと喜んで来るようになるまで慣れさせましょう。 この時に、マズル(口周囲)を触って嫌がらなかったら褒めて歯磨きペーストをご褒美にあげるを繰り返すことがコツです。慣れてきたら指で歯を触ったりしながら口周りを触るということを怖くないことだと教えてあげます。
Step2. 歯ブラシに慣れさせる
歯ブラシのブラシの裏面やブラシ面に歯磨きペーストをつけて舐めさせましょう。 慣れてきたら、口の中に少し入れてみたりしながら歯ブラシで触るということに慣れさせていきます。歯ブラシになかなか慣れてくれない時は、歯磨きガムなどに歯磨きペーストとつけて与えてみたりしながら徐々に歯ブラシに切り替えていくと慣れやすいです。
Step3. 指で口の中を磨いてみましょう。
指に歯磨きペーストをつけながら歯や歯茎を軽くマッサージするように擦ってみます。Step1がしっかりとできて入れば嫌がらずにやらせてくれるはずです。初めは、前歯や犬歯くらいまで、徐々に奥歯の方に指を移動させながらマッサージしていきます。慣れてきたら内側も磨けるかチャレンジしてみましょう。この時に歯磨きガーゼなどを使いたくなりますが、こすりすぎると歯茎が痛くなるため嫌がる子が多いためあまりオススメしていません。
Step4. 歯ブラシでブラッシング
指で歯を磨けるようになってきたら、とうとう歯ブラシでの歯磨きにチャレンジです。Step3と同様に前歯から奥歯の方へ磨くことを徐々に慣れさせていってください。歯ブラシは強く持たなくて良いです。人差し指と親指で軽くつまむくらい。歯と歯茎の接地面を優しくこすりながら食べかすを取ってあげるようなイメージで磨いていきます。上顎(外側)→下顎(外側)→上顎(内側)→下顎(内側)と順番に慣れさせていきましょう。
Step5. 毎日の歯みがきを習慣化しましょう。
歯みがきを習慣化しないと、食後24時間で歯垢が蓄積し、およそ3日ほどで歯石ができてしまいます。1日1回を目安に歯みがきを習慣化していきましょう。どうしてもできない日がある場合は、歯みがきガムなどに歯みがきペーストを塗ってもそれなりに効果はあります。ブラッシングの効果はないため完全に代用できるわけではないですが上手に使いながらなるべく歯石がつかないようにしていきましょう。
Step1. 診療での歯の観察と状態の説明
通常の診療で口の中を診察させていただき、歯の状態を観察させていただきます。 歯石の付き具合や歯肉の状態、現在の症状などによりどういった治療が必要かをお話しさせていただきます。全身麻酔下での歯科治療が必要であれば、同日に術前検査と治療日のご予約も可能です。→お電話にてご相談・ご予約してください。
※初診時の歯科診療はお話に、時間がかかることが多いです。土日は混み合い十分にお話できない場合もございます。比較的時間の取れやすい平日のご来院をお勧めいたします。
Step2. 術前検査と歯科治療のご予約
歯科処置を行うには、かならず全身麻酔が必要です。全身麻酔を実施することができるかどうか、身体検査・血液検査・生化学検査、血液凝固機能検査、心肺機能検査を行い。基礎疾患の有無とその程度の評価をし、オーナー様にご説明いたします。基礎疾患やなんらかの理由で麻酔下での治療ができない場合があります。その場合は治療により、症状の改善または軽減がされ、全身麻酔が可能な状態になってから、歯科処置を実施します。歯科処置は原則として完全予約制となります。
スケーリングとは、通称「歯石とり」とよくいわれる処置です。歯の表面と歯周ポケット内の歯垢と歯石などの付着物を除去します。
そのつぎに、歯周ポケット内に歯垢と歯石を再付着させないように、歯肉に隠れている歯面をきれいにします。(ルートプレーニング)強い炎症をともなう歯肉では、さらに歯肉壁の炎症を除去し再付着できるように処置します。(キュレッタージ)最後に、歯面に研磨剤をつけてブラシやゴムで歯の表面をきれいに磨きます。これにより、歯垢と歯石をさらにつきづらくさせます。そして、洗浄して終了です。
■スケーリング(歯石とり)のながれ
スケーリング
超音波の振動で肉眼で見える歯石をきれいに削っていきます。
ルートプレーニング
ハンドスケーラーで1本1本細かい歯石をきれいに取り除いていきます。また、歯肉内の歯石もこれで除去します。
キュレッタージ
歯肉が歯面に再付着できるように少しだけ削ります。
ポリッシング(ブラシ)
低速で回転させたブラシとポリッシング剤で荒く表面を研磨します。
ポリッシング(ゴム)
低速で回転させたラバーカップとポリッシング剤で細かく表面を研磨します。
洗浄
きれいに洗浄して終了です。
ビフォーアフター
見た目だけの歯石とりだけでなく、歯科治療としての歯石とりとなると様々な処置が必要になります。きちんとした処置をすると歯石の再付着や歯茎の炎症や減退を押さえることができます。動物の歯を一生まもってあげるために、きちんとした情報で歯科治療を行ってあげましょう。
スケーリング前
スケーリング後
スケーリング処置の途中に、歯科検診を行っています。1本1本、歯の状態、歯肉の異常、歯槽骨の状態など、レントゲン検査も実施し見えない部分までしっかりと検査します。
■歯科検診内容
探針ブロープ検査
探針ブロープを使用して、歯肉の状態や露髄などがないかチェックしていきます。
歯科用レントゲン検査
見えない部分の評価をするためにレントゲンを撮影します。
レントゲン診断
レントゲンフィルムを現像し、どのような治療をするかを評価します。
歯科検診にて綿密なチェックの後、病変となる場所を治療していきます。歯周外科・口腔外科・歯の保存修復・歯内治療など、歯の治療だけでなく口の周りの病気のほとんどを治療しております。下で、何症例か治療方法などをご紹介いたします。
■抜歯術
歯石が付着したままの歯や固い食べ物やおもちゃを与えて歯が折れて露髄を起こし、歯髄や歯根膜より歯根先端に感染を生ずると目の下が腫れるしまったり、ひどい場合には、皮膚が壊死してしまいほっぺから膿がでてきたりして来院される方が多いです。
施術前
探針プローブにて歯科検査を行い。肉眼的に原因はどこにあるかを探します。歯科用レントゲンにて、どの歯根に原因があるかを確認して抜歯する歯を選択します。
施術中
今回の歯は第4前臼歯という3根歯のため歯科用ドリルで抜歯をしやすいように3分割にします。その後、歯科用エレベーターを用いて1本1本歯を脱臼させ、除去します。
施術後
抜歯が終了したら、歯科用レントゲンにて残根がないか確認をして、ドリルで歯槽骨を滑らかに削り、感染しないようきれいに消毒をしてから、歯肉を縫合します。
■直接覆とう術を用いた生活歯髄切断術
不正咬合のため他の歯や軟組織を損傷する場合や人をかみ傷つける恐れがある場合に適応され、歯冠を切断し短くする術式です。
施術前
歯科用ドリルで歯冠を切断します。
施術中
歯冠の切断後、殺菌と歯の硬組織を促す詰めものをつめます。
施術後
コンポジットレジンという歯のセメントで穴が開いた部分を塞いで終了です。
※半年後に歯科レントゲンできちんと修復されてるかと感染していないかを確認します。
■歯内治療 抜髄根管治療
施術前
歯髄の露出面を確認をして、歯根の状態などをよく観察します。
施術中
上の写真のファイルというヤスリの様なものやクレンザー(抜髄針)を根管に侵入させ抜髄をします。終了したら消毒をし、充填材(下の写真)で根管を満たします。
施術後
充填が終了したら裏層材を詰めコンポジットレジン(歯科用セメント)で歯の表面を保護します。 半年後と1年おきにレントゲン写真にて感染が起きてないかの確認が必要になります。
■ウサギの切歯不正咬合、臼歯過長症
切歯不正咬合
ゲージを噛んで引っ張る動作などが原因となり不正咬合になってしまい、歯が摩耗できずに切歯が過長してしまいます。これにより咀嚼障害をおこすため。歯科用ドリルで切除し歯並びを綺麗に合わせる治療をします。
臼歯の不正咬合 施術前
牧草を食べる量が少なかったり、与えていない場合におおくみられるのが臼歯の不正咬合です。食事要因の問題で、歯が摩耗されず、ほっぺや舌の方向に歯がのびてしまい粘膜を刺激します。症状は、口をくちゃくちゃする、食べるときに痛がる、下あごによだれがつく、食欲の低下などがみられ、ひどい症状の場合は、食欲の廃絶で来院されるケースの子もいます。
臼歯の不正咬合 施術後
治療は、粘膜を刺激している歯の尖った部分を耳鼻科用のロンジュールという器具で整形しさらに、骨ヤスリをかけて歯の表面をきれいにして舌や頰に歯があたらないように滑らかにします。
「麻酔は危険で怖いから...」・「人では麻酔で歯石とりをしないのに動物ではなぜ麻酔が必要ですか?」とよくご質問をうけます。 さらには、犬猫の「歯科治療を無麻酔でやってほしい」とご来院されるオーナーさんもいます。
でも、ごめんなさい。麻酔下でないと歯石とりや歯科治療は実施できません。当院では、審美的な面の歯石とりではなく、予防歯科治療&歯科治療の目的として歯石とりを実施しております。
スケーラーには刃が付いています。歯の表面は滑りやすいため、動物が動いてしまったり、トレーニングを受けていない人が処置をすると簡単に歯茎や舌を傷つけてしまいます。他の動物病院で無麻酔下で、鉗子で歯石を割ってとってしまい歯を折ったり、歯の根元を残してしまったり、挙げ句の果てには骨折させられて来院されるかたもいます。
歯周炎が発生していれば、出血もおきますし、ひどい痛みもともないます。これが恐怖心となり、口元を触るといやがったり、お家で歯ブラシをさせてくれなくなったり、動物病院ぎらいになり、以降の診察などに影響がでてしまう可能性もあります。また、歯周病の所見は、肉眼で判断はほぼ不可能であり、麻酔下での十分な検査と口腔内のレントゲン撮影が必要になります。これも、無麻酔下ではほぼ不可能です。
当院は、ASC米国麻酔学講義試験にも合格し十分な安全と危険性を考慮した麻酔法を実施しております。そのうえで、痛みのない歯石とりと歯科検査、歯科レントゲン検査をおこない治療が必要な歯の説明や治療方針、予防ケアを指導できるようにしております。
審美的な歯石とりではなく。健康な歯を一生守るための歯石とりをしてみませんか?
ご参考までに、日本小動物歯科研究会の見解ものせておきます。
詳しくはこちら。≫無麻酔下歯石除去(日本小動物歯科研究会)
〒982-0813
宮城県仙台市太白区山田北前町33-69
TEL:022-244-4912
当院では、アニコム損害保険株式会社のペット保険「どうぶつ健保ふぁみりぃ」対応動物病院です。
保険証のご提示で10〜50%の自己負担で診療・入院・手術などの診療を受けることができます。
当院は、オーナー様との会話、動物を大切に見る時間を作るために予約優先診療を実施し、
事前にご予約をいただいております。
ご予約、またはお問い合わせは、お電話にてお願い致します。
022-244-4912