大きな耳垢(耳垢栓塞):なかなか治らない犬の外耳炎は、耳の奥深くに原因があるかもしれません。

犬の外耳炎がなかなか治らない場合は、耳の奥に原因を除去しきれていないことが多いです。
今回は、耳垢栓塞のお話です。

■巨大な耳垢が、耳道と鼓膜を圧迫していたケース

一ヶ月ほど前から、耳を痒がっているということで来院されたRくん。
耳の中を確認するために、ビデオオトスコープ(VOS)で観察したところ、鼓膜近くに大きな耳垢が観察されました。耳洗浄を行い、大きな耳垢を除去しました。
大きな耳垢に押されていたようで、鼓膜が真っ赤に腫れています。
この大きな耳垢を除去後に観察すると、落下した毛と耳垢が混ざったものでした。
耳道内に落ちてしまった体表の毛に耳の分泌物が付着して大きな耳垢を形成してしまい、鼓膜を刺激して違和感や痛みを引き起こしたのではないかと思われます。

■耳の中に入りやすい異物としては、
 ①耳周囲の毛(カット犬種は、トリミング時にカットした毛)
 ②トリミング時のイヤーパウダー
 ③散歩時の植物の種や砂など

上に書いたものが、耳の病気の診察時に遭遇することが多いです。

■自宅での耳掃除が原因の場合もあります。
 耳が汚れているため、綿棒やティッシュなどでの耳掃除をしてあげたのですが、耳垢を奥に押し込んでしまい作られてしまうこともあります。

そのままにしておくとかゆみの症状が治まらなかったり、ひどい時は鼓膜を破ってしまい中耳炎や内耳炎などの原因になってしまう場合もあります。なかなかなおらない外耳炎や耳のかゆみのある時は一度耳の奥をチェックしてみることをお勧めします。


耳を掻く意外な理由!

耳が痒そうと来院される子の多くは外耳炎にかかっていて

炎症により痒みが続いています。

しかし、トリミング後から耳を掻くようになったチワワちゃんの耳を除いてみると…

耳の中は綺麗そうだな〜

ん?お!?おや???

耳の中に毛の束が…!!!!!!

器具が届きそうな位置にあったので取ってみると…

取り出した毛の束

小さいチワワちゃんの耳からこんなに大きな毛の束がとれました😵💦

今回のチワワちゃんはトリミング後から症状がでていたようですが、日常生活している中でも耳の中に毛が刺さっていることは珍しくありません💦

耳を掻くだけではなく、頭を振る行動も耳の痒みや違和感があるときにする行動です。

悪化すると痛みも伴うため、耳を触られるのも嫌がるようになります💦

症状がみられた時は、早めの受診をお勧めします🏥

看護師 中村


耳疥癬:犬や猫の耳ダニ(ミミヒゼンダニ)は、飼い始めに多く、とても痒い感染症です。

今日は、最近の耳の診療中にビデオオトスコープ検査で耳ダニが見つかったので、耳ダニについてお話ししていきたいと思います。

●耳ダニとは?
耳ダニ症(耳疥癬・ミミヒゼンダニ)は、ミミヒゼンダニの感染によって起こる病気で名前の通り耳(外耳道)に寄生する病気です。

子犬や子猫の飼い始めの時期に多い寄生虫感染症で、褐色から黒っぽい耳垢が多かったり、しきりに頭を振ったり耳をかいたりしているときは、感染している可能性がありますので、検査や治療が必要です。

耳ダニは、外耳道に住み着いて、皮膚表面のフケやリンパ液を摂取して生活しています。皮膚表面を引っ掻いた時に、強いかゆみが出てくるため、これに感染するとものすごく痒がる症状をだす子が多いです。

●症状は?
 ①頭をふる
 ②耳を激しく掻く
 ③匂いのする褐色〜黒い耳垢がでてくる
 ④耳介が腫れてくる(耳血腫)
 重症化すると…
 ⑤平衡障害
 ⑥旋回運動
 ⑦斜頸
 などの内耳炎による前庭障害が起こることもあります。

●検査
 ①耳垢検査:顕微鏡検査で耳垢に耳ダニがいないかを確認します。 ②耳鏡検査やビデオオトスコープ(VOS)検査
    :外耳道の中を直接見て耳道の状態を観察します。

光によって逃げるため、なかなか見つけられない場合も多いですが、よく見ると白っぽいゴミみたいなものがもぞもぞと動いているのを見つけることができます。

●治療:治療期間としては約1ヶ月ほどかかります。
 ①駆虫薬による駆除
  治療法は、いろいろありますが、最近は、背中につけるタイプの駆除剤で駆虫することが多いです。他には、注射や局所に駆虫薬を使用しても駆虫できます。
 ②耳洗浄
  耳洗浄により、耳ダニ数をできるだけ減らし、耳道の環境を改善させるようにします
 ③必要であれば、抗生物質などの内服
  2次的に細菌感染や炎症を起こしているようであれば抗生剤や消炎剤などの内服をします

耳ダニ症は、治療によって完治できる感染症ですが、宿主特異性が低く感染している動物に接触した場合は感染をしていると考えた方が良いと言われています。
散歩などで野良猫や野生動物と接触した際や不衛生な環境にしているトリミング時の耳掃除やペットホテルなどでも感染する可能性があります。
耳掃除をしているけど耳垢がなくならない、耳をものすごく痒がるなどの症状が見られたときや、子犬や子猫を飼い始めたときは、動物病院で一度見てもらうことをお勧めいたします。



耳の病気:目次

耳の病気についての「目次」です。
ここでは、当院で行なっているビデオオトスコープ(VOS)療法についてお話ししていきます。

1.耳の構造
  ⇨1.耳の構造について
  ⇨2.鼓膜について 2024.01.31
2.病気
  ⇨1.耳ダニ症(耳疥癬・ミミヒゼンダニ)2017.09.02
  ⇨2.耳垢栓塞2018.06.09
  ⇨3.耳道内異物(ノギの実)2023.09.01
  ⇨4.犬の慢性外耳炎・耳垢腺腫脹2023.12.17
  ⇨5.猫の鼻咽頭ポリープ2024.07.26
  ⇨6.犬の耳垢腺過形成2024.10.04


犬や猫の耳の構造について:犬の外耳炎は慢性化するとなかなか治らない病気です。耳を掻く、こする、臭う、耳垢減らないは要注意!早めに対策してあげましょう。

外耳炎とは?
外耳炎は、診療の中でも特に来院されることが多い病気です。
耳が臭い、掃除をしてもすぐに汚れる、耳が赤い、痒がる、頭を振る、頭を押し付ける、床に擦り付けるなどの症状がみられて来院されます。
今回は、耳の構造を説明します。すこしずつ、外耳炎について勉強していきましょう。

①耳の構造について

耳は外から耳介(耳の内側)から外耳孔(耳の穴)になり、外耳孔の奥がトンネル状の耳道になり鼓膜まで筒状になっています。

この耳介から耳道・鼓膜の手前までを「外耳」と呼び、集音や音源の発生源の特定をします。鼓膜の奥の空間は「中耳」と呼び、耳の防御や排水、換気の役目をしています。最後に奥のぐるぐるしたカタツムリみたいな骨を「内耳」と呼び、音を神経刺激に変換したり、旋回の認知や重力を脳に伝える役目をしています。

外耳炎は、耳介や鼓膜の手前まで炎症が起こることを指し、外耳炎が重症化して鼓膜に穴が空いてしまいうと中耳炎を引き起こしてしまいます。中耳は顔面神経や眼科領域の自律神経が隣接してあるため顔面麻痺やホルネル症候群などの神経症状も起こります。炎症がさらにひどくなると内耳に炎症が波及し、難聴・眼振や斜頸などの神経症状がでてきます。

犬や猫の耳道は、人と違い直線ではなく、L字型の構造をしており入り口付近の縦に落ちる耳道を「垂直耳道」鼓膜までの横に走る耳道を「水平耳道」と呼ばれています。耳道は皮脂腺アポクリン腺(耳垢腺)などを含む薄い皮膚で覆われており細かい耳毛が生えています。これらの腺から分泌される分泌液と角化物から耳垢が作られ、この耳垢には脂肪酸や免疫グロブリンなどの抗菌・抗真菌作用が含まれていて感染を防御しています。耳道の皮膚は鼓膜付近で作られて耳介の方に徐々に移動しいき、古くなった皮膚や異物を分泌物で耳垢にしながら外に排泄して耳の中を清潔な状態に保っています。

正常な耳は、自分の体の作用によって細菌や異物などの感染から防御されています。外耳炎になっている犬猫は線の分泌バランスが変化してると言われ、耳道の中の脂質の割合が変化し、湿度と温度が上昇して外耳炎を起こしやすくなると言われています。特に耳の垂れた犬種は、耳道内の通気性が悪いので湿度や温度が高くなりやすいです。ジメジメして水分があるため、細菌やマラセチアなどが繁殖しやすい条件が整ってしまい外耳炎を引き起こしやすくなるのです。

外耳炎の治療は、この原因の基を治療しないと再発が多くなったり、慢性化しやすくなってしまいます。
次回は、鼓膜についてお話ししたいと思います。