麻酔のおはなし
動物病院では、全身麻酔の必要な処置や手術がほぼ毎日のように行われております。現在の麻酔において、残念ながら「100%安全な麻酔薬」は存在していませんし、「100%安全な麻酔方法」も存在していません。
健康な動物での一般的な手術での関連死の頻度は、犬で0.05%・猫で0.11%(犬で2000頭に1頭、猫で1000頭に1頭)と言われております。(brodbelt,2009) 人の麻酔関連死は0.001%(10万人に1人)と言われておりそれに比べると高い確率になっておりますが、残念ながらその原因はまだはっきりと解明されておりません。犬や猫は種類も多く体格差も幅広いですし言葉もしゃべることができません、また手術に対する認識もないため恐怖心や痛みによるストレスなども関与していることも考えられます。
そう考えると「麻酔は怖いからできるだけ避けたい」というオーナー様のお気持ちも大変理解できますが、麻酔をかけて検査や処置・治療を行うことにより今現在の病気の痛みや苦しみを取り除いてあげられる場合も数多くあるのも確かです。そのため、できるだけその子の恐怖や苦痛を取り除き、より安全に麻酔を行えるように獣医師が知識の向上と麻酔リスクを極力少なくする努力をしていかなければいけないと思います。
ただ単に「麻酔は怖い!」と考えるだけでなく、我が子の病気での症状や痛み、ストレスをできるだけ取り除いてあげるために「麻酔での検査や処置、手術」について考えていただければなと思います。
年齢的な要因も確かにあることはありますが、6才以降加齢により麻酔リスクがどんどんと上がるということはありません。むしろ、年齢よりも「健康状態」が大丈夫かどうか?の方が重要です。
麻酔薬は、呼吸と肝臓で代謝されて腎臓で排泄されていきます。ガス麻酔のほとんどは呼気中に排泄され、注射麻酔薬のほとんどは肝臓で解毒され尿中に排泄されます。そのため、心臓・肺・肝臓・腎臓の機能が弱い子は麻酔の代謝・排泄がまくいかず麻酔中や麻酔後に何かしらの影響が出てくる場合があります。
高齢になっていくと、何かしらの病気を持っている場合もありますので、麻酔をかける前に様々な検査を実施し、基礎疾患がある場合は、リスクの少ない麻酔薬の選択や麻酔法の実施をするようにして安全を確保していきます。
麻酔によりもっとも起こりえる副作用は、呼吸抑制や血圧の低下(心肺抑制)です。程度の差はありますが、必ず麻酔によって心肺機能には負担がかかっていきます。
具体的には、加齢による予備能の低下や動物種・性格・ストレス・肥満・内臓疾患・呼吸疾患・心疾患・アレルギーなどをもともと持っており麻酔に対するキャパシティが少ない場合に引き起こす場合が多く、心肺機能障害や肝機能障害、ショックや神経障害が起こることがあります。
先にも述べたとおり残念ながら「100%安全な麻酔薬」は存在していませんし、「100%安全な麻酔方法」も存在していません。健康な動物での一般的な手術での関連死の頻度は、犬で0.05%・猫で0.11%(犬で2000頭に1頭、猫で1000頭に1頭)と言われております。(brodbelt,2009)
麻酔薬も麻酔法も一昔前に比べると随分進歩しております。麻酔のリスクを完全に防ぐことは不可能ですが、オーナーの皆様よりお預かりした我が子に安全に麻酔をかけるために綿密に計画をたて無事にお返しできるように獣医師が知識や努力を惜しまないようにすることが麻酔リスクをさらに下げることができることだと思い日々精進しております。ぜひ安心して麻酔が必要な場合はお任せください。
短頭種(ブルドック、フレンチブルドッグ、ボストンテリア、パグ、シーズー、ペキニーズなど)は、他の犬種に比べて麻酔は危険と言われています。それを不安視されて、麻酔を躊躇されるオーナー様も非常に多く遭遇します。
短頭種は、他の犬種に比べて軟口蓋が垂れ下がっており気道の構造が狭いため、日常の生活でも呼吸が苦しく、ちょっとしたことで呼吸困難に陥りやすいのです。これを「短頭種気道症候群」といい、呼吸の際に空気の抵抗が大きくなるためより吸気が強くなり、結果として呼吸困難に陥ってしまい低酸素血症や高体温症を引き起こしてしまいます。
その形態学的な特徴により、全身麻酔をかけることで筋肉が弛緩し、気道の構造がさらに狭くなってしまい呼吸不全を容易に起こしやすくなってしまうため「短頭種の麻酔は危険」と言われているのです。
短頭種に麻酔をかける場合は、できるだけ楽に呼吸をできるように工夫してあげることで麻酔リスクを下げてあげることができます。「麻酔は怖い」と言われたからと検査や治療、手術を躊躇している子がおりましたらお気軽に当院にご相談してください。
その子の年齢や体調、性格や基礎疾患、また処置や手術の内容や時間などいろいろなことを考慮しながら麻酔薬の有効な作用と副作用を考慮して麻酔薬の決定をし、複数の薬剤を組み合わせていきながら、より安全な麻酔プロトコール(手順)を組み立て実施していきます。
1. 術前検査
いろいろな検査を実施し、健康状態に問題がないかを評価します。
- 一般検査:体重・体温・血圧・聴診や触診などで全体を評価します。
- 血液検査:血液量を測定し、貧血や感染・止血機能などを評価します。
- 生化学検査:肝臓や腎臓、蛋白質や糖、電解質などを評価します。
- 血液凝固機能検査:止血機能の評価をします。
- 内分泌機能検査:甲状腺ホルモンやステロイドホルモンの評価をします。
- レントゲン検査:心肺機能と内臓の評価をします。
- エコー検査:心機能と内臓の評価をします。
- 心電図検査:心機能を評価します。
2. 麻酔プロトコールの作成
術前検査の結果よりその子にあった麻酔手順を作成します。麻酔前投与薬、麻酔導入薬、維持麻酔薬、点滴量や薬剤の種類と投薬量を決定し、予測しえる危険が起きた時にスムーズに対処できるように緊急薬などもスムーズに準備できるように準備しています。
3. 酸素化や麻酔前投与薬の投与
不安や恐怖・痛みをとったり、少し大人しくさせる鎮静薬などの薬剤を麻酔前投与薬として投与します。そしてある程度効いてきた段階で麻酔に入る前に酸素を5分ほどかがせる酸素化という肺のウォーミングアップを実施します。
4. 麻酔導入薬の投与
意識を消失させることを目的とした注射を実施します。
5. 気管内挿管
麻酔導入薬が効いてきて喉頭反射が消失した段階で気管内に気管チューブを挿管して安定した酸素吸入とガス麻酔薬を投与できるように準備をします。
6. 維持麻酔
吸入麻酔薬や注射麻酔薬を用いて麻酔深度を調節しながら手術をします。また、手術用モニターを設置して様々な項目を監視をし体に異常が起きていないか常に監視をしていきます。
- 心電図:心機能の評価
- 脈:心機能の評価
- 血圧:心機能の評価
- 血中酸素濃度:心肺機能の評価
- 呼気中二酸化炭素濃度:肺機能の評価
- 呼吸数:肺機能の評価
- カプノグラム:肺機能の評価
- 換気量:肺機能の評価
- 体温:代謝機能の評価
7. 術後管理
手術室より回復室や集中治療室に移動します。
術後補助なしで起立や歩行できるようになるまで、数分おきに意識や呼吸状態、粘膜色や心拍数、体温などこまめに動物の状態を監視しています。 手術の内容にもよりますが、覚醒後3時間以内に異常が出ることが多いためそれまでの間は特にこまめに観察しております。
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当院では、アニコム損害保険株式会社のペット保険「どうぶつ健保ふぁみりぃ」対応動物病院です。
保険証のご提示で10〜50%の自己負担で診療・入院・手術などの診療を受けることができます。
当院は、オーナー様との会話、動物を大切に見る時間を作るために予約優先診療を実施し、
事前にご予約をいただいております。
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